月の神話は本当なのか?満月が人に与える影響を科学的に検証する

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人類の文化史において、月は神秘的な存在とされてきた。それゆえに、人を狼に変えたり、精神異常やてんかんを誘発したりするなど、様々な神話が生み出されたとしても不思議ではない。

異常な事件の背景には必ず満月があると真しやかに囁かれる。そして月、特に満月と人間の生体や行動との関連性を突き止めようと、これまで多くの研究がなされてきた。しかし、その大半は月との関連性を見出すことができず、あるとされた研究であっても、後に調査の欠陥が発見されたり、再現性が得られなかったりした。

月相と出生、心臓発作、死亡、自殺、暴力事件、精神科の入院、てんかん発作などの件数を比較した信頼性の高い研究からは、関連性などほとんどないことが幾度となく明らかにされている。

月の影響で起きる潮汐(ちょうせき)が人体に及ぼす影響

人体のおよそ75%は水でできている。このことから、体内でも潮汐と呼ばれる潮の満ち干きが起きているのだろうかという疑問が首をもたげる。

地球上の海で目にすることができる潮の満ち干きは、月と太陽の影響で起きている。重力の影響は非常に大きく、地球の地殻ですら伸び縮みするほどだ。

だが潮汐は大規模な現象であり、物体の一面と他面における重力の影響の差異が原因である。月に面した側の海は、地球の中心よりも月に強く引っ張られる。これが満潮の原因だ。このとき、地球の中心はその裏側よりも強く引っ張られているために、地球を裏側の海から引き離す。したがって、やはりそこでも満潮となる。

しかし、人体に関しては、表側も裏側も測定できるような月の重力の違いが生じない。大きな湖ですらも潮汐はごくごく小さなものだ。例えば、アメリカ海洋大気庁によれば、五大湖では約5cm以上の潮汐が起きることはないという。こうしたわずかな差異は、風や気圧の変化による水面の変化によって隠されてしまい、実質的には潮汐はないと考えられているそうだ。

これは小さな規模では潮汐が生じないと言っているのではない。

重力の影響は距離が伸びるにつれて低下するが、決してなくなりはしない。つまり理論的には、宇宙に存在するあらゆるものが、その他のあらゆるものを引っ張っているということだ。計算によれば、赤ちゃんを抱く母親は、月が赤ちゃんに与える潮汐力の1,200万倍の力で我が子を引っ張っているという。それは月よりも近くいるという単純な理由ゆえだ。

地球が24時間に一度自転することから、海で潮汐が日に2回起きることを考えてもらいたい。もし月の引力が人体に影響を与えているのなら、人間は毎日2回は不安定になっているはずだろう(おそらくそうなのだろう)。

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満月の影響

以下に挙げるのは、月との関連性を見出すことができなかった信頼できる研究の一例だ。いずれも査読付きの科学誌に掲載されたものである。

てんかん:
2004年の『エピレプシー・アンド・ビヘイビアー』誌に掲載された研究は、てんかん発作と満月との関連性を発見できなかった。とはいえ、一部の患者は満月によって発作が起きると考えているようだ。かつててんかんが魔女や悪魔憑きのせいにされていたことが、医学的な説明より神秘的な原因を求める傾向を作り出したのではないかと推測されている。

精神科の受診:
2005年の『サイキアトリック・サービシズ』誌の研究は、ある精神科の救急病棟の過去数年間を遡り、午後6時から午前6時までの受診者数を調査した。それによれば満月とそれ以外の晩において、受診者数の統計的な差異はなかった。

救急治療室の受診:
ある郊外にある病院の救急治療室を受診した150,999名の記録を調査した研究では、満月とそれ以外の晩で特に違いは発見されなかった。1996年の『アメリカン・ジャーナル・オブ・エマージェンシー・メディシン』誌に掲載された研究。

手術の結果:
病院関係者は満月ではてんてこ舞いなのだろうか? 2009年の『アネスシジオロジー』誌に掲載された研究によれば「ノー」だ。冠動脈バイパス移植手術のリスクは、曜日や日とは関係がなかった。

だが、月の影響を確認したと主張する研究もある。

ペットの怪我:
コロラド州立大学獣医センターで診察した11,940件を調査した結果、満月では救急治療室を受診する患畜の数が、猫では23%、犬では28%増えることが判明した。満月の晩はペットの散歩に行く人が増え、それが事故につながる可能性などが指摘されるが、原因について結論は出されていない。

月経:
様々な憶測が流れているが、証拠はほとんどないトピックの好例である。その論拠は、満月は月に1度現れ、女性の生理もまた月に1度あるという点だ。押さえておきたいのは、女性の生理周期は長さも時期も変動し、平均して28日であるのに対して、月の周期は29.5日にぴったり決まっていることだ。それでも、312人の女性を対象とした1980年の研究では関連性があると主張されている。

『アメリカン・ジャーナル・オブ・オブステトリクス・アンド・ガイナコロジー』誌に掲載されたそれによれば、被験者の40%が満月から2週間以内に生理が始まっていたという。しかし逆に言えば、60%はなかったということだ。果たして、この結論に意味があるのかどうかは疑わしいし、また過去30年でこの研究を支持するものがなかったことにも注意が必要だ。

動物が野生化:
2001年の『ブリティッシュ・メディカル・ジャーナル』誌に掲載された1組の相反する研究には、さらなる調査の余地が残されているだろう。一方の研究では、満月の晩において動物に噛まれて救急治療室を受診するイギリス人患者が2倍になったとしている。しかし、オーストラリアで実施された他方の研究では、いずれの晩でも犬による咬傷事件の数に変化はないとしている。一部の野生動物は確かに満月によって行動が変化する。例えば、ライオンは普段夜に狩りを行うが、満月が過ぎると日中に狩りを行うことが増える。これは満月の晩は狩りが難しく、それを補うためだと考えられている。

睡眠不足:
このトピックに関してはかなりの研究がある。1999年『ジャーナル・オブ・アフェクティブ・ディスオーダーズ』誌では、現代の照明が存在しなかった時代、月は夜間の主要な光源であり、睡眠サイクルに影響を与えていたと論じている。そして満月は睡眠不足の原因となる傾向があったそうだ。この睡眠不足が、影響を受けやすい双極性患者の妄想やてんかん患者の発作を誘発していたという。

2013年には33名の成人を対象とした小規模の研究が実施されている。それによれば、月を見ることができず、月相を知らない人でも、満月の間は睡眠時間が減るのだそうだ。しかし、その研究者は信頼性を確認するために、結果を再現する必要があると述べている。2014年の再調査では、月相と睡眠の相関関係は確認されなかった。

また2016年3月にも同トピックの研究が発表されている。12ヶ国に住む9~11歳の子供5,800人を対象にした研究で、満月の晩は5分睡眠時間が短くなることが判明した。論文では、健康面の点で問題になることはなさそうだが、興味深いと述べられている。その原因については、満月の明るさが原因である可能性もあるが、人工的な光に囲まれた現代においては疑わしいそうだ。

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なぜ月の神話はいまだに信じられているのだろう?

現代の照明が月による狂気の原因をかき消してしまったというのなら、なぜ今だに満月にまつわる神話が広く信じられているのだろう?

一説によれば、満月の晩に奇妙な出来事が起きると、”偶然”にも頭上に明るく輝くものがあることに気がつくからだという。それ以外の晩では、不可思議な出来事があってもただ不思議だと思うだけで、いちいち天体現象に結びつけたりはしない。

警察や医師が満月の夜はやたらと忙しくなると考えているのなら、それは通常の夜には事件が珍しいと解釈しているのかもしれない。予測は認識に影響する。そのため、その認識に合致する証拠が余計目につくのだ。

最後に満月の狂気に最大の反論を突きつけておこう。満潮は満月の晩だけでなく、新月にも起きる。月が地球と太陽に挟まれ見えなくなっても、地球は2つの天体から受ける重力の影響を感じているのだ。だが、新月の晩に不可思議な出来事が起きるという主張は聞いたことがない。

via:livescience translated hiroching / edited by parumo

出典:カラパイア
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